車輪の下 うたかたの日々を読み終えた感想

大雨の中傘を忘れて駆け込んだ高架下の謎の空間。しばらく出る事が出来なそうなので、本の感想でも書いてみる。自分がある作家に夢中になった場合、大概その作家が誰に影響を受けたかを探る。そうして遡った時に現れた作家からまた関連した次の作家へと枝分かれする様に探っていきどんどん掘り進めていくということをする事がある。自分は飽き性なのでそうは言ってもいつも直ぐ探究の旅は終わる。と言うわけで最近はART-SCHOOL木下理樹から遡りヘルマンヘッセ車輪の下、ボリスヴィアンうたかたの日々を読んだ。両作品とも大変格好良くて夢中になった。本来ならヘッセ、ヴィアンの他作品も読んでいって暫く作家について考えるみたいなのが良いような気もするけど自分は普段ともかく文学、小説を全然読まないのでもっと網羅的に他の作家に触れてみたいと言う様な気分になった。なので次はコクトー恐るべき子供たちを読んで何と無くこれからフランス文学とかどんどん読んでいきたいと思っている。
車輪の下
ART-SCHOOLに同名の曲があって、本当にこの曲の歌詞で描かれるどうしようもない人間の情け無さが好きだった。「偽った苦しくて偽った車輪の下誰ひとり信じれず生きてきた」木下理樹の歌詞は孤独と狂気について描かれる事が多いけれど車輪の下は特に捻りがなくあまり詩的ですらなく、剥き出しの孤独と情け無さが全開だ。同名の小説があると知ったのは割と最近で古典的な青春文学の傑作という事だったので直ぐに買って二、三日で読み終えた。小さな農村の秀才ハンス・ギイベンラアトが学業に励み様々な挫折を経験し、自殺に至るまでを描くと言うのが本当にざっくりとした本作の粗筋。その学業の才故に周囲から多大な期待を掛けられたハンスがその重圧によって精神的に押し潰され、彼の若さ、豊かな青春が剥奪される様が描き出される。周囲の評価を過剰に気にしながら自分本位に生きることが出来ずに死んでいくハンスはとても哀れで読んでいくうちに滅茶苦茶入り込んで読んでしまった。寄宿学校に入ったハンスが生涯唯一の親友ハイルナアに特別な感情を抱き、友愛と恋愛の狭間で揺れ動きながらも些細な行き違いの末に二人の関係が解消される中盤の展開も儚くて綺麗だった。
・うたかたの日々
ART-SCHOOLの歌詞には頻繁に用いられるモチーフがある。イノセントを称えた少女、教会、血、なんと無くではあるもののそう言ったエッセンスをうたかたの日々から読み取ることは出来た。それ以外にもハツカネズミ、スケート場、クロエなどART-SCHOOLの楽曲で現れた数々のワードがそのまんまうたかたの日々に存在している。小説のあらすじは暫く遊んで暮らせるほどの経済的余裕のある6人組の若い男女がひっついたり離れたりしていたら全然お金が無くなって最後に破滅するという感じ。この小説、情景描写がとても突飛で刹那的で夢の様な脈略の無さ。最初はびっくりした。薔薇色の雲が降りてきたり、ハツカネズミが喋り出したり、カクテルを作るピアノマシンやら心臓抜きといった架空のガジェットまで存在するのだから読んでいて退屈しない。初めは若さと華々しさが溢れんばかりで主人公コランとその妻クロエの恋愛模様も初々しくて楽しい感じなのだけど、終盤にかけてどんどん雲行きが怪しくなる。金が無くなり、クロエは奇病で死に絶え、その遺体も滅茶苦茶にされ妻を失った衝撃に耐えられず終いにはただ水面を眺める悲惨な男の後ろ姿が残されるのみ。豊かな日々と破滅の対比が美しく、時折挟まる突発的な暴力描写も記憶に残る。ヴィアン本人が著した前書きに綺麗な少女とジャズ以外全部滅びてしまえと言う様な事が書いてあったけど正しくそんな感じの小説だった。